企業のウェブサイトは、今や事業活動に欠かせない存在となっています。一方で、ひとたび脆弱性が悪用されれば、情報漏えいやサービス停止といった重大な被害につながる可能性があります。
独立行政法人 情報処理推進機構(以下、IPA)が2026年1月に公開した「ソフトウェア等の脆弱性関連情報に関する届出状況」によると、2004年に受付を開始してからの累計受付件数は19,859件です。
その内の13,467件がウェブサイトに関する届出となっており、全体の約7割を占めている状況です。

出典:ソフトウェア等の脆弱性関連情報に関する届出状況[2025年第4四半期(10月~12月)]|IPA 独立行政法人 情報処理推進機構
ウェブサイトの脆弱性は、企業活動に直接的な影響を及ぼすリスクとなっています。
その対策指針として、IPAは「安全なウェブサイトの作り方」を公開し、代表的な脆弱性と具体的な対策を整理しています。
本記事では、このガイドラインの内容を踏まえながら、安全なウェブサイトを実現するために必要な考え方と、脆弱性診断サービスの役割について解説します。
安全なウェブサイトの作り方とは?(IPAガイドの概要)
「安全なウェブサイトの作り方」とは、IPAがウェブサイトの開発者や運用者に向けて公開している、ウェブサイトにおけるセキュリティ問題の解決を目的としたガイドラインです。
IPAへ届出があった脆弱性情報に基づいて作成されており、2006年に初版が、2015年に現在の第7版が公開されています。
安全なウェブサイトの作り方 第7版| IPA 独立行政法人 情報処理推進機構
このガイドラインは全3章で構成されています。
第1章ではウェブサイトにおける代表的な脆弱性と対策について紹介し、
第2章ではウェブサイト運用時の対策を中心に解説しています。
そして、第3章では脆弱性が存在する場合の失敗例を示しています。
開発時、運用時の各段階における対策が解説されており、多くの企業や開発者が参考にしています。
安全なウェブサイトの作り方で示されている主な脆弱性
脆弱性とはセキュリティ上の欠陥を指し、ほとんどのセキュリティインシデントが脆弱性に起因します。
脆弱性には様々な種類が存在し、「安全なウェブサイトの作り方」では届出の多い、または影響度の大きい脆弱性が11例ほど紹介されています。
本記事では、その中から代表的なインジェクション系の脆弱性を3例紹介します。
①SQLインジェクション
SQLインジェクションは、ウェブサイトのデータベースに不正なSQLクエリを挿入できるといった脆弱性です。SQLインジェクション により、データの漏洩や改ざんが発生する可能性があります。

②OSコマンドインジェクション
OSコマンドインジェクションは、ウェブサイトを通じて不正なOSコマンドが実行できるといった脆弱性です。OSコマンドインジェクション により、システムの制御を奪われる可能性があります。

③クロスサイト・スクリプティング
クロスサイト・スクリプティングは、ウェブページに悪意のあるスクリプトの埋め込みが可能であるといった脆弱性です。クロスサイト・スクリプティング により、ユーザーのセッション情報の盗難や、不正な操作が行われる可能性があります。

画像出典:安全なウェブサイトの作り方 第7版| IPA 独立行政法人 情報処理推進機構
これらの脆弱性は、ソフトウェアのセキュリティ向上を目的とする非営利財団OWASPが発表した内容です。
ウェブアプリケーションに関する脆弱性の中で危険性が最も高いと判断された項目を示す「OWASP top 10」にもランクインしています。
OWASP Top 10:2025| OWASP
最新の2025年版ではインジェクションとして5位にランクインしており、依然として広く検出される主要な脆弱性カテゴリの一つとされています。
安全なウェブサイトの作り方に基づく具体的対策
上記以外にも存在する様々な脆弱性について理解を深め、適切な対策を講じることが重要です。
「安全なウェブサイトの作り方」では、脆弱性対策を対策の性質によって分類しています。
重要なのは、選択する対策が
・脆弱性の原因そのものを取り除くものなのか
・攻撃による影響を軽減するものなのか
という違いを正しく理解することです。
本ガイドラインでは、これらを「根本的解決」と「保険的対策」の2つに整理しています。
根本的解決
「根本的解決」とは、脆弱性を作り込まない実装を実現する手法です。
この対策を適切に実施することで、その脆弱性を狙った攻撃自体を無効化できることが期待されます。
たとえば、
・SQLインジェクションを防ぐための適切なプレースホルダの使用
・クロスサイト・スクリプティングを防ぐための出力時エスケープ処理
・OSコマンドを直接実行させない設計
・入力値の厳格な検証
などが該当します。
これらは、脆弱性の「原因」に直接アプローチする対策であり、安全なウェブサイトを構築するうえで最も優先すべき手法といえます。
理想的には、設計段階からこれらの手法を採用することが望ましいとされています。
保険的対策
一方で「保険的対策」とは、脆弱性の原因を無くすものではなく、攻撃による影響を軽減する対策です。
ガイドラインでは、攻撃から被害までの各フェーズにおいて、影響を抑える考え方が示されています。
具体的には、
・攻撃される可能性を低減する(例:攻撃のヒントとなる情報を与えない)
・攻撃された場合に、脆弱性を突かれる可能性を低減する(例:入力値のサニタイズ)
・脆弱性を突かれた場合に、被害範囲を最小化する(例:アクセス制御)
・被害が生じた場合に、早期に検知する(例:ログ監視や事後通知)
などが挙げられます。
保険的対策は、いわば「セーフティネット」として機能します。
ただし、脆弱性の原因そのものを解消するわけではないため、保険的対策のみに依存した設計は推奨されていません。
両者を組み合わせる重要性
「安全なウェブサイトの作り方」では、根本的解決を基本としつつ、必要に応じて保険的対策を併用することが有効とされています。
また、すでに開発を終えたウェブアプリケーションに対して後から対策を実施する場合、費用や時間の制約により、すぐに根本的解決を実施できないケースもあります。そのような場合、保険的対策は暫定措置として重要な役割を果たします。
ただし、保険的対策の内容によっては、利便性や本来の機能を制限する副作用を伴うこともあるため、対策の選択には慎重な検討が必要です。
安全なウェブサイトを実現するためには、「どの対策がどの効果を持つのか」を正しく理解し、目的に応じて組み合わせることが不可欠です。
ガイドラインだけでは防ぎきれない理由
「安全なウェブサイトの作り方」に沿って対策を講じていたとしても、脆弱性を完全に排除できるとは限りません。
根本的解決を意識した実装を行っていても、設定ミスや想定外の入力、設計上の見落としなどにより、脆弱性が残存する可能性があります。また、新たに発見される脆弱性や攻撃手法の変化によって、過去に問題がなかった箇所がリスクとなるケースもあります。
攻撃者はわずかな弱点を狙います。
対策を実施していることと、安全であることは必ずしも同義ではありません。
では、自社のウェブサイトにどのような脆弱性が存在しているのかを客観的に把握するには、どのような方法があるのでしょうか。
その一つとして、IPAが公開している『ウェブ健康診断仕様』があります。これは代表的な脆弱性に対して検査パターンを絞り込み、基本的な対策状況を確認できる簡易的な診断手法です。 ただし、診断を行う際は、必ず注意事項を確認してから実施してください。
ウェブ健康診断仕様| IPA 独立行政法人 情報処理推進機構
しかし、この診断はあくまで基本対策の確認を目的としたものであり、ウェブサイト全体の安全性を保証するものではありません。より網羅的かつ実践的な検証を行うためには、専門的な知見に基づく脆弱性診断が有効な手段となります。
安全なウェブサイトを維持するための脆弱性診断サービス
脆弱性診断サービスとは、専門的な手法やツールを用いてウェブサイトを検証し、潜在的な脆弱性の有無やその危険度を明らかにするサービスです。検出された課題を可視化することで、どこを優先的に改善すべきかを判断できるようになります。
脆弱性診断サービスの種類
脆弱性診断サービスには主に2種類の形態が存在します。
- 自動ツール診断
自動診断ツールは、ウェブサイトの脆弱性を自動的に検出するツールです。これらのツールは、迅速かつ効率的に脆弱性が発見可能です。代表的なツールにOWASP ZAPがあり、オープンソースであるため無料で利用が可能で、幅広い脆弱性を検出できます。 - 手動診断
手動診断は、専門のセキュリティエンジニアが手作業で脆弱性を検出する方法です。自動ツールでは見逃しがちな脆弱性や、発生条件の複雑な脆弱性が発見できます。
これら2種の検査方法を駆使して、ウェブサイトに存在する脆弱性の発生箇所、検出数、危険度などを網羅的に明確化していきます。
脆弱性診断を実施する重要性
次に、脆弱性診断を行う重要性として以下のような点があります。
- 早期発見
脆弱性を早期に発見できるため、「根本的解決」を行い、攻撃を未然に防げます。早期発見により、セキュリティインシデントの発生を防ぎ、被害を無くす、または最小限に抑えられます。 - コスト削減
脆弱な箇所や危険度の把握ができるため、事前に「保険的対策」が可能になります。仮にセキュリティインシデントが発生したとしても、修正コストや被害を最小限に抑えられ、結果的にコスト削減につながります。 - 信頼性向上
安全なウェブサイトの提供が可能になるため、ユーザーからの信頼を獲得できます。セキュリティが確保されたウェブサイトは、ユーザーに安心感を与え、利用者の増加にもつながります。
特に個人情報や機密データを扱うウェブサイトにおいては、セキュリティインシデントの発生が、企業にとって致命的な損害となってしまうケースが多いです。
そのようなウェブサイトに対しては、脆弱性診断サービスの利用は必須といっても過言ではないでしょう。
まとめ
IPAの「安全なウェブサイトの作り方」は、代表的な脆弱性とその対策を体系的に整理した指針です。安全なウェブサイトを実現するためには、脆弱性を作り込まない「根本的解決」と、影響を軽減する「保険的対策」の両方を理解し、適切に組み合わせることが重要です。
しかし、対策を実施していることと、安全であることは必ずしも同義ではありません。自社サイトの現状を客観的に把握し、継続的に確認していく姿勢が求められます。
脆弱性診断は、その有効な手段の一つです。安全なウェブサイトを維持するための取り組みとして、第三者視点での検証を検討してみてはいかがでしょうか。
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