近年、サプライチェーンを狙ったサイバー攻撃の被害が増えています。サプライチェーンとは、製品が作られて消費者に届くまでの一連の流れを指します。取引先や協力会社を経由して攻撃が仕掛けられるため、自社だけの対策では不十分なケースも少なくありません。
本記事では、サプライチェーンセキュリティの重要性や被害事例に加え、2026年度以降に開始予定の「サプライチェーン強化に向けたセキュリティ対策評価制度」にも触れながら、具体的なリスクや対策方法について解説します。サプライチェーンのセキュリティに不安を感じている方は、ぜひ参考にしてください。
サプライチェーンセキュリティの重要性
サプライチェーンセキュリティとは、製品やサービスが企画・開発されてから、製造、物流、販売、提供に至るまでのサプライチェーン全体に存在するリスクを把握し、情報資産や業務を守るための取り組みを指します。自社のシステムや拠点だけでなく、取引先や委託先、子会社なども含めて対策を講じる点が特徴です。
サプライチェーンを取り巻く現状やその性質上、こうしたサプライチェーン全体を視野に入れたセキュリティの確保は非常に重要となっています。まずは、サプライチェーンセキュリティがなぜ重要視されているのか、その背景を把握しておきましょう。
サプライチェーン攻撃の深刻化
サプライチェーンを狙ったサイバー攻撃では、攻撃対象が特定の企業に限定されない点が大きな特徴です。攻撃者は、セキュリティ対策が比較的弱い子会社や取引先を足がかりに侵入し、最終的に中核企業や他の関係先へと被害を拡大させます。
IPA(情報処理推進機構)が公表した「情報セキュリティ10大脅威 2025」では、組織を対象とした脅威の中で、「サプライチェーンや委託先を狙った攻撃」が2位に挙げられました。この脅威は、2019年に初めてランクインして以降、毎年上位に位置し続けており、当初は4位だった順位も年々上昇しています。特に2023年以降は3年連続で2位となっており、サプライチェーン攻撃が一過性の問題ではなく、日本企業にとって恒常的かつ深刻なリスクとなっていることがうかがえます。
出典:情報セキュリティ10大脅威 2025 | 情報セキュリティ | IPA 独立行政法人 情報処理推進機構
こうした推移からも、サプライチェーン攻撃は一部の企業に限った問題ではなく、多くの日本企業に共通する脅威として、継続的に対策が求められているといえるでしょう。
経済的・社会的影響の大きさ
サプライチェーンを狙ったサイバー攻撃は、1社の問題にとどまりません。サプライチェーン上でセキュリティ事故が発生すると、経済的・社会的影響は非常に大きなものとなります。
たとえば、サプライチェーン上のわずか1社がマルウェア(悪意あるソフトウェア)に感染しただけでも、関連する企業全体へ脅威が広がります。その結果、生産や物流が止まり、サプライチェーン全体で業務の遅延や停滞を招きます。さらに、攻撃によって製品供給が途絶えれば、それを待つ消費者や社会インフラにまで影響が及ぶでしょう。
こうしたリスクは経済的な打撃にとどまらず、社会全体の混乱を引き起こす要因になります。だからこそ、サプライチェーンセキュリティは企業規模を問わず取り組むべき重要な課題といえるのです。
サプライチェーンを脅かすサイバー攻撃の手口【被害事例】
サプライチェーンは、さまざまな手口のサイバー攻撃によって脅かされるリスクがあります。ここでは、代表的な3つの手口を、国内の被害事例とともに紹介します。
脆弱なシステムへの侵入
サプライチェーン攻撃の基本的な手口は、脆弱なシステムを狙って侵入を図ることです。子会社や協力会社の脆弱な環境を調査して攻撃対象に選ぶケースがあれば、関連企業へ無差別に侵入を試みるケースもあります。脆弱なシステムに侵入されることで、標的企業の機密情報が取得されたり、不正アクセスが行われたりする恐れがあります。
実際に、ある大手電機メーカーは、海外関連会社の脆弱なシステムを経由して自社のパソコンに不正アクセスを受けました。国内本社のサーバーも攻撃され、個人情報や企業機密の漏えい、業務停止が発生しました。1社を起点に被害が拡大した事例です。
内部不正
サプライチェーンを脅かす攻撃者は、必ずしも外部の第三者だけではありません。従業員や内部リソースの権限が不正に悪用されるケースもあり、合法的なアクセス権を持つ関係者や端末が、攻撃の足がかりとなるリスクがあります。
たとえば、2025年9月に国内で公表されたサイバー攻撃事案では、従業員向け端末や社内ネットワークのアクセス権が不正に利用され、最大で190万件以上の顧客情報が流出した可能性があるとされています。 このインシデントでは、攻撃者がネットワーク内部に侵入した後、アクセス権限を乱用する形で内部システムに深く浸透し、重要データに影響を及ぼしたとされています。
こうした事例は、内部関係者や内部アクセス権を狙った侵害がサプライチェーン全体のセキュリティにも大きな影響を与え得ることを示しています。
ビジネスメール詐欺(BEC)
「ビジネスメール詐欺(BEC)」とは、取引先や経営者などを装った偽のメールによって、情報の窃取や不正送金などを図る手口です。不正に入手した内部情報をもとに、精巧なメールを作成して関係者を信じ込ませます。結果として、サプライチェーン全体に被害が及ぶリスクがあります。
実際に、ある自動車部品メーカーでは、経理担当者が偽のメールに従い、多額の資金を不正に送金してしまいました。この事例は金銭的損失にとどまりましたが、個人情報や取引情報が流出していれば、被害は取引先や顧客にも広がっていたことでしょう。
サプライチェーンに潜むセキュリティリスク
サプライチェーンには、取引先や物流拠点、情報システムなど、さまざまな段階でセキュリティ上のリスクが潜んでいます。1社だけでなく、サプライチェーン全体が標的となるため、幅広い視点で対策を検討することが大切です。
ここでは、物理面・システム面・ガバナンス面の3つの観点からリスクを整理し、企業が注意すべきポイントを解説します。
物理面のリスク
サプライチェーンにおける物理面のリスクとしては、倉庫や物流拠点への不正侵入が挙げられます。無断で立ち入られると、製品の盗難や設備の破損、情報媒体の持ち出しといった事態を招きかねません。
外部から持ち込まれたUSBメモリなどを通して、マルウェアがネットワーク内に持ち込まれる恐れもあります。入退室管理や監視カメラ、センサーの設置など、多層的な防御策が求められます。
システム面のリスク
サプライチェーン上の情報システムに脆弱性があると、サイバー攻撃の侵入経路となります。特に、各企業が個別のシステムで情報を管理している場合、どこが攻撃の起点になっても不思議ではありません。サプライチェーン全体を巻き込んだ、包括的・網羅的なセキュリティ対策が必要です。
また、インターネットに接続するWebシステムは、外部からの攻撃にさらされやすいです。Webアプリの脆弱性を悪用した攻撃には、WAF(Web Application Firewall)が有効となります。WAFを導入することで不正アクセスやデータ改ざん、情報漏えいといったさまざまなリスクを低減できます。
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ガバナンス面のリスク
サプライチェーン全体でセキュリティを確保するためには、組織としてのルールや運用体制の整備が欠かせません。ルールが未整備だったり従業員教育が不十分だったりすると、意図しない情報漏えいや不正アクセスにつながります。
リスクを低減するためには、権限管理や監視体制の見直し、セキュリティ教育の実施が必要です。ただし、1社の被害がサプライチェーン全体に波及するため、各社個別の対策だけでは不十分です。サプライチェーン全体で方針を統一し、全社で最適なセキュリティ体制を目指すことが大切です。
サプライチェーン強化に向けたセキュリティ対策評価制度とは
サプライチェーン強化に向けたセキュリティ対策評価制度とは、サプライチェーンを構成する企業が、自社および取引先におけるセキュリティ対策の状況を共通の観点で整理・可視化し、その水準を評価するための仕組みです。自社単体の対策だけでは防ぎきれないリスクが顕在化していることを背景に、サプライチェーン全体のセキュリティ水準を段階的に底上げすることを目的として検討・整備が進められています。
本制度は、2026年度以降の本格的な運用開始が想定されており、今後は取引先選定や継続的な取引の判断においても、セキュリティ対策の状況がより重視される可能性があります。制度の導入を見据え、企業には早い段階から自社および取引先の対策状況を把握し、改善を進めていくことが求められます。
制度では、ガイドラインの整備状況や従業員教育の体制、システム・運用面での管理状況など、企業が講じるべき基本的なセキュリティ対策を横断的に評価します。これにより、各社の対応状況を客観的に把握しやすくなり、サプライチェーン全体で共通認識を持ちながら対策を進めることが可能となります。
サプライチェーンセキュリティを強化するための対策
サプライチェーンの安全を守るためには、関連企業が共通の意識を持ち、段階的にセキュリティ対策を進めることが欠かせません。前述のセキュリティ対策評価制度は、こうした取り組みの状況を共通の観点で整理・評価するための枠組みとして位置づけられています。
一方で、評価制度は今後の本格運用が想定されているため、現時点では、既存のセキュリティガイドラインに沿って対策を進めることが現実的かつ有効なアプローチといえます。ここでは、評価制度の考え方も踏まえつつ、企業が今から実践すべき代表的な3つの対策について紹介します。
セキュリティガイドラインを活用する
まずは、既存のセキュリティガイドラインを参考にしながら対策を進めることが重要です。サプライチェーンに関連するガイドラインとしては、経済産業省が公表している「サイバーセキュリティ経営ガイドライン」が代表的です。このガイドラインでは、経営層が認識すべきリスクや、組織として整備すべき体制、継続的な対策の考え方などが体系的に整理されています。
サプライチェーン強化に向けたセキュリティ対策評価制度は、現在検討・整備が進められている段階であり、具体的な評価項目や基準は今後明らかになる予定です。そのため現時点では、評価制度そのものに直接対応することよりも、既存のガイドラインに沿って基礎的なセキュリティ対策を着実に進めていくことが現実的な対応といえます。
また、評価制度の設計にあたっては、既存のガイドラインや標準との整合性を考慮する方向で検討が進められていることから、ガイドラインに基づく取り組みを進めておくことは、将来的な制度対応に向けた準備の一つとして位置づけることができます。
なお、ガイドラインは自社内だけで完結させるものではありません。サプライチェーン全体で共通の指針として参照し、取引先や委託先とも方向性を共有しながら対策を進めることで、サプライチェーン全体のセキュリティ水準の底上げにつなげることが重要です。
セキュリティ教育を実施する
次に大切なのが、従業員を対象としたセキュリティ教育です。パスワードの適切な管理や不審メールの識別といった基本を理解していなければ、日常の小さな行動が大きな被害の発端になりかねません。
特にサプライチェーンに関わる企業では、受注者企業に対して、営業秘密や機密情報の重要性、適切な取り扱い方法について教育を行うことが重要です。また、退職時における情報の持ち出しリスクについても注意喚起を行い、情報資産を適切に管理する意識を浸透させる必要があります。
セキュリティ教育は、経営層から現場の従業員まで含めて全社的に実施すべきです。さらに、自社内にとどまらず、サプライチェーンを構成する取引先や委託先企業に対しても共通の方針のもとで実施することが求められます。定期的な研修や勉強会を通じて最新の攻撃手口や注意点を共有することで、サプライチェーン全体のセキュリティ意識を高められるでしょう。
脆弱性診断を実施する
サプライチェーンを構成するシステムには、脆弱性が潜んでいる場合があります。脆弱性は攻撃者にとって格好の標的となるため、見過ごすのは危険です。
そのため、専門家やツールによる脆弱性診断を定期的に行うことが推奨されます。診断によってシステムの弱点を把握し、修正を重ねることで安全性を維持できます。
ただし、効果的に診断を進めるには専門知識が求められるため、自社での対応が難しい場合は外部の専門サービスを利用するのも一案です。
当サイトでも脆弱性診断サービスを提供しています。専門家がツールを併用しながら効率的に診断を行い、サプライチェーンの安全性を高めるサポートを行います。セキュリティに不安を抱える方は、ぜひご活用ください。
まとめ
サプライチェーンを狙ったサイバー攻撃は、広範な被害をもたらす危険性をはらんでいます。こうした被害を防ぐためには、サプライチェーンセキュリティの重要性や取り組みについて理解を深め、サプライチェーン全体で取り組んでいくことが大切です。
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