インターネットを通じた取引(ECサイト)は年々増加しており(図1)、ECサイトはビジネスの重要な柱となっています。顧客の個人情報やクレジットカード情報を扱うECサイトは、サイバー攻撃のターゲットになりやすく、実際に多くの被害が報告されています。特に、個人情報や決済情報などが漏洩すれば顧客の信頼低下や、問題の是正に係る対応コストの発生、各種認証の取り消しなど、企業にとって致命的な打撃となります。
図1 – 電子商取引に関する市場調査結果
(出所:経済産業省「電子商取引に関する市場調査報告書」
https://www.meti.go.jp/press/2023/08/20230831002/20230831002.html)
前述のような背景から、経済産業省は「ECサイト構築・運用セキュリティガイドライン」(https://www.meti.go.jp/policy/netsecurity/guideforecsite.html)を公開し、ECサイトのセキュリティ強化を推進しています。このガイドラインは、ECサイト運営者がセキュリティリスクを管理し、顧客情報を適切に保護するための具体的な指針を示しており、業界全体のセキュリティ水準を底上げすることを目指しています。
本記事では、経済産業省が検討に入っている、ECサイトの脆弱性診断の義務化について解説していきます。そして、脆弱性診断の義務化ガイドラインの内容を詳しく解説するとともに、ECサイトに潜むセキュリティリスクや脆弱性診断の重要性について考察します。
経済産業省が定めたガイドラインとは
経済産業省が2023年3月に公開した「ECサイト構築・運用セキュリティガイドライン」は、ECサイト運営におけるセキュリティの基盤を構築するための指針を提供しています。このガイドラインは、特に中小企業の経営者や責任者またその関係者を対象とし、ECサイト構築から運用に至るまで必要なセキュリティ対策を「経営者編」と「実践編」の二部構成で明確にしています。
第1部:経営者編
経営者編では、ECサイトの運営におけるセキュリティの重要性を理解し、経営者が果たすべき役割について説明しています。7つの重要項目に基づき、新規構築と既存運営の両方の観点から必要な対策が示されています。経営者が組織全体でリーダーシップを発揮しながら、セキュリティ対策を推進する意識を持つことが重要とされています。
第2部:実践編
実践編は、ECサイトのセキュリティを実際に管理・運用する担当者向けです。サイトの構築時には必須と推奨に分かれた14のセキュリティ要件があり、これにはデータ暗号化やアクセス制御、脆弱性診断の実施などが含まれます。さらに、運用時には7つのセキュリティ対策要件が定義されており、サイトの継続的な安全性を確保するための定期的なチェックやトラブル発生時の対応策がまとめられています。
このように経営層と技術担当者の両方が役割を果たし、組織全体でセキュリティ意識を高めながら、安全なECサイト運営を実現できるように設計されています。
ECサイトに潜む危険性
ECサイトは、サイバー攻撃の標的として非常に魅力的な存在です。サイトの特性上、多くの個人情報や決済情報取り扱いながら不特定多数からのアクセスを許可する必要があるためです。
攻撃者は、個人情報や決済情報を窃取するため、攻撃対象のWebサイトを調査し、目的達成のために悪用可能な脆弱性を見つけようとします。以下は、ECサイトにおいて特に注意すべき個人情報や決済情報等のセキュリティリスクの原因となる脆弱性の一例です。
- SQLインジェクション
SQLインジェクションは、攻撃者が不正なSQLクエリをデータベースに挿入し、データを盗み出したり、改ざんしたりする攻撃手法です。例えば、ログインフォームや検索機能などの入力フィールドに悪意のあるコードを入力することで、攻撃が実行されます。
- クロスサイトスクリプティング(XSS)
クロスサイトスクリプティング(XSS)は、攻撃者が悪意のあるスクリプトをWebページに挿入し、ユーザーのブラウザで実行させる攻撃です。これにより、ユーザーのクッキー情報やセッションIDが盗まれ、アカウントが不正に乗っ取られる可能性があります。
- 脆弱な認証と認可
ECサイトにおける認証と認可が脆弱である場合、攻撃者が不正にシステムにアクセスするリスクが高まります。具体的には、パスワードの強度不足、二要素認証の未導入、不適切なセッション管理などが原因となります。 このようなセキュリティリスクを軽減するにはどうすれば良いのでしょうか?
ECサイトに潜む危険性の可視化と対応
ECサイトの安全性の向上にあたり、まずは現状を可視化し、危険性を識別することが重要です。脆弱性診断は、ECサイトに潜む危険性(セキュリティリスク)発見し、効果的に対処するための重要な手段の一つです。経済産業省が発表したガイドラインでも、定期的な脆弱性診断の実施が強く推奨されており、ガイドラインからもECサイトの安全性を確保することが求められています。では、脆弱性診断の具体的なメリットやその実施プロセスについて解説していきます。
- 事前対応によるセキュリティ強化
脆弱性診断は、サイバー攻撃が発生する前にセキュリティリスクを発見し、対策を講じるための事前対応です。攻撃者は日々新しい攻撃手法を開発しており、それに対応するためには、常に最新の脅威情報を基にした診断が必要です。
- コンプライアンスの維持
脆弱性診断は、ガイドラインに従ったコンプライアンスの維持にも直結します。ECサイト運営者は、個人情報保護法やクレジットカード業界のセキュリティ基準(PCI DSS)など、さまざまな法規制や業界標準を遵守する必要があります。このような規制に違反した場合、企業は厳しい罰則を受ける可能性があり、また顧客からの信頼を失うリスクも伴います。
- ブランド価値の向上
脆弱性診断を積極的に実施し、その結果を元にセキュリティ対策を強化することは、企業のブランド価値を向上させる効果もあります。特に、セキュリティに関する透明性を高めれば、顧客に対して「この企業は私たちのデータを守るために真剣に取り組んでいる」というメッセージを伝えることができます。
定期的な診断を行うことで、既存のセキュリティ対策の効果を評価し、新たな脆弱性が発生していないかを確認できます。その結果に基づいて必要な改善を行えば、コンプライアンスを維持することができます。
加えて、脆弱性診断結果を第三者機関に提出し、適切なセキュリティ対策が実施されていることを証明すれば、さらなる信頼性の向上が期待できます。
顧客が安心して取引できる環境を提供することは、他社との差別化にも繋がり、長期的な競争優位性を確保するための重要な要素となります。
まとめ
経済産業省が策定した「ECサイト構築・運用セキュリティガイドライン」は、ECサイト運営者にとって重要な指針となるものです。ガイドラインに従ったセキュリティ対策の実施は、サイバー攻撃から顧客情報を守り、企業の信頼性を維持するための重要な施策です。
特に、定期的な脆弱性診断の実施は、サイトの安全性を確保し、コンプライアンスを維持するための基本となります。さらに、診断結果を元にしたセキュリティ強化は、企業のブランド価値を高め、競争力を維持するためにも重要です。
セキュリティは一度導入すれば終わりというものではなく、継続的な取り組みが求められます。
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